訪日外国人客が急増し、京都では都市・観光インフラの対応力が限界に達しつつある。観光公害とその対策をテーマに『京都が観光で滅びる日』(ワニブックスPLUS新書)を上梓した村山祥栄・元京都市議に話を聞いた。

年5200万人もの訪問客:不動産価格は急騰

2月2日、京都市民は市長選に1票を投じる。新しい争点の一つが観光公害、いわゆるオーバーツーリズムにどう対処するかだ。

京都はこの10年で大きな変貌を遂げた。原因は京都へ押し寄せる大勢の観光客である。訪日外国人客が年3000万人を突破する中、京都へ足を伸ばす外国人も10年前の50万人から800万人へと跳ね上がった。18年には、日本人も含めた訪問客は5200万人に達し、宿泊費や食費、買い物などで推定1兆3000億円が消費される。(16年度の京都市の名目国内総生産(GDP)は6兆3000億円)。旅行者の3分の1が京都に宿泊することで、市の人口は実質的に毎晩平均15%も増加した状態にある。

急激な旅行者の増加は、数々の副作用をもたらしている。バックパッカーやスーツケースをひきずる旅行者であふれ返る公共交通。石畳を歩く芸妓を追いかけて写真を撮ろうとする観光客。神社仏閣をうろうろしてごみをポイ捨てする人々。民泊客にかき乱される閑静な住宅街。こんな騒ぎを嫌ってか、京都を訪れる日本人客は2016年以降減少に転じている。

また、ホテル建設や民泊物件投資が過熱して、市中の不動産価格が急騰。地元住民が市内に住めなくなったり、地元で長く商売を続けてきた商店がはじき出されたりする現象も起きている。

悪化する一方の「観光公害」に京都市当局がどう対処すべきか。地元のメディアでは、同じように観光客が殺到するベネチアやアムステルダム、バルセロナなど欧州の現状を報じるようになった。それらの都市ではデモやボイコット運動が起き、旅行者への規制や課税が強化された。京都も同じような道を歩むのだろうか。


京都駅前でバス乗り場の案内板を見る観光客ら=2019年9月、京都市下京区(時事)

「民泊」が生む混乱

19年12月15日、筆者は、元京都市会議員で2月の市長選に立候補を表明した村山祥栄氏に観光公害についてインタビューする機会を得た。村山氏の選挙公約の大きな柱の一つは、観光改革である。

「観光のマイナス面への対処にしても必要なインフラ投資にしても、市の動きはあまりに遅すぎます」と村山氏は語る。「いまや観光公害は、かつてないほどのレベルに達しています。このままいけば日本人旅行者の京都離れはますます進み、市民の観光客への嫌悪感は高まる一方でしょう」

著書の『京都が観光で滅びる日』によると、京都市は近代的ツーリズムのパイオニアだった。1927年には京都駅に日本初の観光案内所をオープンし、その3年後には市観光局を設立した。観光公害問題が顕著になったのは、ここ数年のことだ。

京都の住民が最も問題視しているのは、「民泊」である。民泊とは市内の住宅やアパートを旅行者など短期滞在者に貸し出すことで、Airbnb(エアビーアンドビー)などの仲介サイトの登場で人気が加速した。住宅所有者が自宅の1室を貸し出すだけならまだしも、開発業者や投資家が民泊市場になだれこみ、マンションを1棟丸ごと買い取って民泊専用に改修するようになった。

その結果、観光スポットや商業地域しかいなかった旅行者が、住宅街へも流れこむようになった。観光客が夜更けに住宅地の通りをスーツケースをひきずって歩いていたり、家を間違えてインターホンを鳴らしたりする例が増えて、苦情が出始めた。投資目的の民泊物件オーナーが地元町内会に加入・協力しないというぼやきも多い。

京都市は不満に応えて断固たる対応に出た。2017年、民泊施設の運営に極めて厳しいルールを定める条例を制定したのだ。その中には、住宅地域の民泊は1月から3月にかけての2カ月間に限るという規定もある(国の法律は年間180日を上限としているので、それより厳しい)。さらに、民泊・簡易宿泊所では敷地内またはすぐ近所に、管理者の24時間常駐を課すルールも盛り込んだ。

新たな条例の規定を守れずやむなく廃業した民泊・簡易宿泊事業者もいたが、村山氏は市当局の対応を高く評価している。「京都市は徹底して住民サイドに立って民泊を事実上排除し、住民の日常生活を取り戻したんです」

ホテル建設ラッシュ

一方、ホテル建設に対する京都市のアプローチはあまり功を奏していないという。現市長は2019年11月、今後は市が新規ホテルの建設を無条件に奨励しないと記者会見で語った。それまでは、部屋数がまだ足りないとして野心的なホテル誘致目標を掲げていた。これが前例のないほどのホテル建設ラッシュを引き起こした。市内のホテル部屋数は19年3月現在で4万6000室超に達し、16年と比べ5割も増えている。

「ホテルの方がマンションやオフィスビルより資本利益率が高いため、ホテル建設業者が市中心部の売り物件を高値で買いあさっています。その結果、京都の商業地の地価上昇率は東京を抑えて全国1位になりました」と村山氏は言う。

この流れに輪をかけているのが、一等地にある市有地を東京系や外資系のホテル運営・建設業者にリースするという市の戦略である。中には明治時代に近隣住民の寄付金で創立された由緒ある小学校の廃校跡地も含まれており、それを民間企業に利用させることに住民から批判が出ている。災害時に避難所として使われてきた場所がなくなることを憂える意見もある。

人口縮小都市・京都

建設ブームや観光客の気前のよい消費にもかかわらず、京都市は日本の大都市(政令指定都市)のうち、人口が減っている数少ない市の一つだ。人口は2015~19年にかけての5年間に0.6%減って147万人になった。対照的に周辺自治体、特に隣接する滋賀県の市町村では人口が増えているところが多い。村山氏によれば、手の届く価格のマイホームを求めて市外へ転出する若い世帯が絶えないことが大きな理由だ。

地元に魅力的な雇用がないため、大学生の多くが卒業すると京都を離れる。オフィススペースが比較的高コストで数も少ないため、企業が市内に事務所を構えにくいのが一つの理由だと村山氏は分析する。

「京都といえば観光の街だと思うでしょうが、実は京都の産業構造に占める観光の割合は10%程度に過ぎません。観光中心に経済が回っているハワイや沖縄とは違い、京都には製造業やサービス業、不動産業が多数あります」

「もちろん、日本政府や京都府の観光奨励政策は間違ってはいません。特に、産業が乏しい地方自治体の発展を促す点では意義があります。しかし、京都は観光以外の産業でも発展する可能性を持つ大きな都市なのです」

それ以上に問題なのが、観光ブームが所得増につながっていないことだという。新たに生まれた雇用の多くが、ホテルやレストランなどの非正規雇用だからだ。そのため、市の歳入は増えるどころか10年前と比べてむしろ減っている。京都市の積立金の規模は、政令指定都市の中では最低レベルにある。市の財政が苦しいのは、地元に数ある神社仏閣が、市に固定資産税も拝観料所得税も払っていないせいでもある。

このような現状から京都市民の多くが、自分たちは観光の恩恵を受けていないと感じている。19年6月18日付京都新聞に掲載されたアンケートによれば、住民の70%が、市は観光客数を制限すべきだと回答した。あるコメントが核心をついている。「『京都ブランド』に甘えすぎです。インフラや受け入れ態勢が整っておらず、観光客増による経済成長があっても市民には実感がない」

持続可能なツーリズムを目指して

村山氏は、主要なバス路線の慢性的混雑緩和に向け、市内に環状地下鉄線を建設することを提案する。ルートは京都、五条、祇園、出町柳、北大路、西大路の各エリアを結ぶ。財源には、18年に市が旅行者対象に導入した「宿泊税」の税収をあてればよいという。19年度の宿泊税収は約40億円だった。

さらに、神社仏閣をはじめ近年の観光ブームの受益者が、観光インフラ開発にもっと貢献すべきだと主張する。

「市民には、神社仏閣にも課税すべきだという根強い思いがずっとありました。しかし1980年代に市が課税を試みて失敗して以来、この件はタブーになってしまいました」 

京都市は1985年、神社仏閣の拝観料に50円の「古都税」を課税する条例を制定した。これに反発した主要寺社が拝観者に門戸を閉ざし、観光客は激減。2年にわたる膠着(こうちゃく)状態の末、市は古都税を撤廃した。以来、市当局と地元宗教団体との仲はぎくしゃくしたままだという。

「とはいえ、観光公害がここまで問題になっている以上、古都税に代わる協力の方法については検討すべきです。寺社の方も観光業界が地元住民に迷惑をかけているのは分かっていて、自分たちも何らかの形で状況改善に協力すべきだと徐々に悟り始めています。観光客受け入れに必要なインフラを寺社団体にどのような形で支援してもらうのがいいか、話し合うべきです」

京都だけではない観光政策の新潮流

東京五輪を機に訪日する外国人観光客は記録的規模に上るはずだ。その受け入れ態勢づくりが進むにつれ、京都でもそれ以外の地域でもようやく、観光のコストや恩恵の規制・共有をめぐる議論が始まりつつある。政府は2020年に4000万人の外国人観光客を誘致するという目標を掲げた。10年後には年6000万人にしたいとしている。

識者はこうした野心的な目標を批判し、できるだけ多くの観光客を呼び寄せて名所巡りをさせることしか考えない時代錯誤なマスツーリズム・モデルから脱却せよと呼びかける。東アジアの芸術・文化の専門家アレックス・カーをはじめ多くの著名人は、日本は観光客数をより効果的に制御し、自然や文化遺産の保護を強化すべきだと主張する。そしてハイエンド(高級)・ツーリズムを推進し、数は少なくても富裕層の客を誘致すべきだという。

十分とはいえないが、その方向への動きもみられる。有名な文化遺産の入場料を値上げして客数を抑えようとする対策もその一つだ。あまり知られていない観光スポットや地域を売りこむことで、観光客を分散させようとする試みも成果を上げている。都市圏以外での外国人旅行者の消費額は急激に伸びており、18年の観光客消費総額の30%を占めるまでになった。

奈良市、ニセコ市、札幌市、北九州市などは、近年の大阪や京都の例にならい、宿泊税の導入を検討中だ。宮島のある広島県廿日市市、沖縄県竹富島では観光客からの入島料徴収を計画・実施している。収入は、増える観光客に対応したインフラ強化にあてるという。

政府は、地方自治体による観光関連の税や条例の導入に対し、比較的寛大な姿勢だ。京都市の宿泊税導入や、民泊規制強化への態度がそれを物語っている。

避けては通れない「政治問題」に

観光をめぐる日本国内の議論や法的枠組みはターニングポイントにさしかかった。議論はいま、徐々にだが地⽅の政治課題にまで拡大しつつある。

「今まで、観光公害を選挙の争点にするのは非常に困難でした。観光客から直接的な形で迷惑を受けている人、例えば人気の観光スポットの周辺住民とそれ以外の人では、温度差が大きいからです」と村山氏は言う。

「この件に関心をもつ議員は市議会にも少しはいますが、政党間にはっきりした立場の違いはありません。観光が争点の一つになっている今回の市長選においてさえ、候補者のスタンスはぼやけがちです」

「観光公害」はいまや、避けては通れない政治問題である。地方議員も有権者も、観光客・産業界・住民おのおのの利害のバランスをどのようにとるかという問題に向き合わねばならない。今回の京都市長選は、日本の地域社会がこの厄介な問題にどういう答えを出すかが明らかになる試金石となるだろう。

( 原文英語)

バナー写真:京都・祇園に立てられた、観光客のマナー遵守を呼びかける絵文字の看板(時事)

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