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宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#24」

2020年6月8-14日

【まとめ】

・ロス暴動と今回のフロイド事件とは比較にならない。

・今回の反対デモは中心的「指導者」を持たない。

・米国は各州と州内はそれぞれ多様で、『全米』の表現はおかしい。

 

5月25日の週から始まったアメリカ大都市での抗議運動が三週目に入った。日本のメディアも「全米各地で抗議デモ続く ワシントンでは最大規模」などと大きく報じるようになった。白人警官に事実上殺されたアフリカ系市民ジョージ・フロイドを悼み、警察の過剰警備を批判するこれらの「草の根運動」を天邪鬼の筆者は次のように見る。

 

1、ワシントンでの最大規模デモ?

日本の某テレビ局は「6日、首都ワシントンでこれまでで最大のデモが行われるなど全米各地で抗議デモが行われた」などと報じていたが、彼らは一体何を見ていたのか。確かにデモの規模は半端じゃなかったかもしれぬ。だが、1992年にロサンゼルスで起きた大暴動・大略奪事件に比べれば、今回の抗議運動は実に整然としたものだ。

あのロス暴動は、前年に起きたロドニー・キング暴行事件で起訴された警官たちが無罪評決となったことからアフリカ系を中心に民衆の不満が爆発したもの。筆者はワシントン大使館勤務だったので、当時のことは鮮明に覚えている。特に衝撃を受けたのはアフリカ系の暴徒が韓国系移民の店舗を狙い撃ちで略奪したことだった。

今回は一部若手識者が「1960年代以来の盛り上がりだ」などとコメントしていたことにも驚いた。ジョージ・フロイド事件を1960年代と比較するのは、当時命を賭して公民権のため戦ったMLキング牧師など偉大な運動家に対し失礼ではないか。筆者にとっても、1960年代の公民権運動は、既に一世代前の世界の話なのだから・・・。

▲写真 Los Angeles Riots, 1992 出典:Flickr; Ricky Bonilla

 

2、指導者のいない抗議デモ?

1960年代と最も異なる点は、今回の運動が中心的「指導者」を持たないことだ。自然発生的であることは、良く言えば柔軟だが、悪く言えば抗議の目的と落し所が必ずしも明確ではないということ。こうした手作りの抗議運動にとってトランプ政権ほどやりにくい相手はない。恐らく、トランプ氏にはこの問題を収束できないだろう。

先ほどCNNは、暗殺される前のロバート・ケネディ司法長官がキング牧師暗殺直後に行った演説を流していた。その内容が実に素晴らしく感動した。「私の家族も白人に殺された。今この国に必要なのは分裂ではない。今この国に必要なのは憎しみでもない」と人種間の和解を訴えていたからだ。当時の政治家は今より偉大だったのか。

▲写真 ロバート・ケネディ司法長官 出典:Library of Congress

これに比べれば、現職大統領は何と器の小さいことか。今米国に必要なのは国の統一であり、団結であり、和解であり、癒しであるはずなのに、現大統領は何一つこの種の発言をしない、というか意図的に避けているようにすら思える。マティス前国防長官が「トランプはこの国を分断しようとしている」と批判したことは間違っていない。

 

3、全米に広がる黒人の抗議運動?

藪睨みの筆者は、米国について「全米」とか「黒人」などという用語を乱発する評論家や識者を信用しないことにしている。そもそも「全米」なんて米国にはない。ワシントン州シアトル、ジョージア州アトランタ、イリノイ州シカゴ、などなど、各州と州内はそれぞれ多様であり、「全米各地で拡大している」などと簡単に言えるはずはないのだ。

同様に筆者は「黒人」という言葉も極力使わないようにしている。彼らが自分たちをblacksと自称するなら良いが、筆者は彼らをいつもAmericans of African ancestriesアフリカ系アメリカ人と呼ぶ。Black Americansなる表現は差別用語ではないだろうが、言葉に敬意を込めるため個人的には使わない。まあ、これも趣味の問題だろうが・・・。

 

〇 アジア

韓国で元「慰安婦」支援団体の不正疑惑が止まらない。無理を重ねれば「叩けば埃」ということか。今頃日本の嫌韓派は大喜びだろうが、この混乱いつまで続くのか。

 

〇 欧州・ロシア

米国に端を発した人種差別抗議運動が英仏などに飛び火している。そういえば、欧州にも似たような問題があることは公然の秘密だ。一部諸国は戦々恐々だろうに。

 

〇 中東

コロナウイルスの影響なのかエジプト、トルコなど中東の観光地で閑古鳥が鳴いている。申し訳ないが、現地を知る筆者は今中東で観光する気にはならない。当然だろう。

 

〇 南北アメリカ

マティス前国防長官に続きパウエル元国務長官もトランプ氏を公然と批判したが、この程度で落ち込む大統領ではなかろう。まだ大統領選挙まで5カ月もあるのだから。

 

〇 インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:ジョージ・フロイドメモリアルの追悼式の後 出典:Flickr; Lorie Shaull

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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

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