旭川と言えば札幌から北に向かって車で約2時間、道内でも人口が2番目に多い大きなまちです。豊かな自然、旭山動物園などの人気観光地、旭川家具に代表されるものづくり産業、おいしいグルメ、と魅力満載のまちです。特に旭川駅から伸びる「買物公園」は、多くのお店が立ち並びイベントも頻繁に開かれる、まさに旭川の人と外の人が交わる地点。そんな買物公園に2018年に「GUEST HOUSE ASAHIKAWA RIDE(ゲストハウスアサヒカワライド)」という個性的なゲストハウスがオープン!その魅力を取材しに、オーナーの杉浦さんを訪ねました。

林業の道を選び、アフリカを経由して道北の名寄市へ

杉浦哲也さんは愛知県のご出身とのことですが、どうしてこの旭川という地でゲストハウスを始めたのでしょうか。まずはそのあたりからお聞きしてみました。

杉浦さんと旭川の縁は大学進学で北海道に来たことから始まります。元々ご家族でスキーを楽しんでいたこともあって、北海道は念願の場所だったそう。大学では農学部で林業について学びますが、自然と卒業後はその道に進みたいという気持ちが強くなっていきます。そしていよいよ大学卒業と共に選んだ先は、なんと北国とは真逆のアフリカのタンザニア!青年海外協力隊として2年間、タンザニアで林業に関する仕事をすると決めたのです。

現地で様々な経験をし充実もしますが、同時に感じたのは「そもそも日本のことも良く知らないな、まずは日本の為に何かしたいかも」ということでした。

社会人としてのスタートはタンザニア!

2年の任期を終えて日本に戻ってきた杉浦さんは「自分は日本の林業の現場について知らないことが多い。まずはその経験をしてみたい」ということで、公務員試験を受け、林業に関する専門職として北海道の職員となる道を選びます。

道職員として最初に杉浦さんが赴任した先は、旭川からさらに北に車で1時間半の位置にある名寄市でした。そこで初めて杉浦さんは、旭川市や名寄市を含む上川エリア(北海道のほぼ中央から北に向かってのびる内陸地帯の盆地。冬と夏の寒暖差が極めて大きい地域)の魅力に出会ったのです。
「名寄には5年間いたのですが、スキーやアウトドアが大好きな自分にとって、この大雪山のある上川エリアは本当に魅力的でした。この時によく旭川にも足を運んでいたのですが、とても住みやすいエリアだと感じたんです」

四方を山に囲まれた上川エリアは「北海道の屋根」と言われる大雪山、「北海道最大の大河」石狩川など道内でも屈指の大自然に恵まれています。縦に長く、北は中川町、南は占冠村とエリア内でも様々な風土がありますが、中心地とも言えるのが旭川市。多くのスキー場がその旭川を囲むように点在し、ウィンタースポーツを楽しめる大自然と、滞在先や生活圏である都市部とが近く、アクセスがとても良いことが特徴です。
さらに旭川市街には多くの飲食店があり、美味しいグルメも多いため、旅行に来た人がアウトドアを楽しみながら、地元の人と交流しやすいことがとても魅力的に映ったそうです。

経営に興味を持ち、起業のため地域おこし協力隊に

その後杉浦さんは異動となり、次なる勤務先である後志地方の倶知安町に赴任します。倶知安と言えば、ニセコがあるしスキーが好きならすごく楽しかったんじゃないですか?という取材陣の質問に、杉浦さんは首をひねりました。

5D3B5005.JPGこちらがオーナーの杉浦哲也さん

「実はニセコを見た時に、ちょっと違和感があったんです。一番は外国人のお客さんが多すぎることでした。すごく混んでいるけど、一方で地元の方とはあまり交流がないように見えて…」

活気があるのはとても良いことだけど、杉浦さんのイメージする、地元の方が主体となってにぎわいを作り出す、という状況ではないように感じられたそうです。
さらに、バックカントリーが好きな杉浦さんにとっては、質の良いことで有名なニセコの雪さえも、名寄や大雪山で感じた、手つかずの大自然やパウダースノーの感動には及ばなかったそうです。

IMGP7504asahikawaraido.JPG旭川市内近郊の小さな山にて(いわゆる、その辺の裏山)。このあたりは冬の気温が低く、標高が低くても、大きなスキー場に行かなくても上質のパウダースノーを楽しめます

こうした違和感に加えて、林業の現場を見れば見るほど、今の自分のできることに限界を感じるようになったと言います。「林業の専門的な知識はあっても、経営やお金のことは素人でした」 
民間の林業の会社と接するのに、経済という面での知識も身につけなければ、という思いから、なんと大学院へ通いMBAを取得することを決意、経営学や会計・簿記、英語等の勉強をしながら、大学院入学の準備を進めます。こうして札幌の本庁に異動になった後は、いよいよ小樽商科大学の大学院に進学を果たし、経営に関する学びを深めていきました。するとこれをきっかけにビジネスに対しての興味が深くなり、もっともっと勉強したい!と思うようになったそうです。
そして仕事をしながら夜間に通う中で、杉浦さんは知識の他にもかけがえのない出会いを得るのです。

「この大学院に通う中で一番大きかったことは、道職員のままでは絶対に出会うことができなかったような経営者の方にたくさん出会い、繋がりを持つことができたことです。起業家や、若き2代目社長など、立場も年齢も違う様々な想いを持った人たち。その時にできたそういった仲間から今もたくさんの刺激を受けています」

5D3A1801.JPGゲストハウス内のキッチンカウンターにて。明るい光の差し込む気持ちの良い空間

そんな刺激を受けた杉浦さんは徐々に「自分でもビジネスを始めてみたい」という気持ちが強くなっていったそうです。大学院で学んだことの集大成として卒論でも取り上げた「旭川圏のアウトドアに興味のある方に対してアプローチするビジネスプラン」を、本気で実現させてみたい、と思うまでになっていったのです。
「もともと安定を求めて公務員になったわけではなかった」と言う杉浦さん、こうして、行政としての林業の仕事から、旭川市を中心とする上川エリアにアウトドアを通して人を呼び込むビジネスの実現へと、やりたいことの方向転換を果たしたのでした。

しかし、ビジネスを学んだからこそ、地元でもない旭川で突然そのプランを立ち上げてもリスクが高いことは分かっていました。そこで考えたのが、まずは札幌でアウトドアに関する仕事に就こうか?それとも旭川で仕事を探して、地場を固めたり繋がりを作れる何かを探そうか……。ということでした。
そんな時に出会ったのが地域おこし協力隊の募集でした。地域おこし協力隊とは、外部の人間が移住して来てその地域のまちおこしをしながら、将来は起業などでその地域に定住することを目標とした総務省の事業のひとつです。しかも、旭川で募集をしていた地域おこし協力隊の仕事内容は「旭川に人を呼び込むこと、移住を促進させること」。杉浦さんにとってこれ以上ない、まさに目的にピッタリと合う仕事だったのです! 道職員を辞めて退路を断ち、さっそく企画書を作成して採用選考に挑んだ杉浦さん、何と18倍の競争率を突破して、見事旭川で初の地域おこし協力隊になったのでした。

アサヒカワライドの誕生

5D3A1776.JPG8人用ドミトリー。この他に4人用ドミトリーと女性専用ドミトリーがあります

地域おこし協力隊は給与を得ながら最長3年間の活動が可能です。しかし、杉浦さんは協力隊として活動を始めた2017年からすでに、同時進行でゲストハウスの準備を始め、2年目には何とゲストハウスをオープンするに至るのです! しかし意外なことにゲストハウスというカタチにしたのはたまたまだったと言います。
「元々は街中でアウトドアに興味がある人たちが集まれるような場作りをしたくて。将来的にはアクティビティセンターを目指したいと思っていたんです。そこに偶然、以前ゲストハウスがあったところが空き店舗になっているという情報が入ってきたんです。それならここで、アウトドアに興味のある人も集まってくれるようなゲストハウスをしようと決めました」

秋からコツコツと準備を始めた杉浦さんでしたが、ひとりでゲストハウスの改装をするのは大変なことです。そこに手をさしのべてくれたのは、協力隊員として移住の業務の中で交流を始め仲良くなった移住者のご夫婦でした。そのご夫婦の他にも、今まで道の職員として、旭川の地域おこし協力隊としてがんばってきた縁などから多くの方の協力を得て、翌年の2月についにアサヒカワライドは誕生したのでした。
オープンしたのは旭川でも人気のイベント「旭川冬まつり」の開催期間。アサヒカワライドのある買い物公園も会場になっていることもあって多くのお客さんが訪れ賑やかなオープンとなりました。

5D3A1790.JPGアサヒカワライドのある建物は地元の人が行き交う買い物公園に面しています。駅にも近く最高の立地
アサヒカワライドを訪れるお客さんは様々で、日本と外国のお客さんは半々くらいなのだそうです。駅にも近く立地が良いこともあって、出張で来るお客さんや観光で来るお客さんも多くいますが、やはりアウトドア好きな杉浦さんがオーナーということもあって、上川エリアのアウトドアを楽しみたい方が多く訪れるそう。スキーや自転車などアウトドアに関するギアの貸し出しも行うなど、受け入れ体制も整っています。

上川エリアを盛り上げるアウトドアの拠点を目指して

最大16床あるうえ、杉浦さん一人で運営しているため、夏の繁忙期は大忙しだったそうですが、時間があいた時には杉浦さんも一緒にスキーに行くなど、アウトドアを通じてゲストとの交流を楽しんでいるそうです。時には、来てくれたゲストの方に会いに地球の裏側まで足を運んだり、知り合ったゲストを通じて、その国を一周するほど好きになったり、そうした経験はこの仕事ならでは、と言います。
アメリカのコロラドから来たあるゲストは、一緒にスキーに行くうちにすっかり仲良くなり、とうとう旭川に移住を果たしたそう。色々な道を模索してきた杉浦さんですが、結果的にこれほど上川エリアのアウトドアの魅力を伝えているゲストハウスもなかなかないのではないでしょうか。

5D3B4975.JPGゲストは世界中から訪れます
心配な今の状況もうかがってみました。
「本格的にオープンし地域おこし協力隊も卒業して、いよいよこれからというタイミングでしたが、アサヒカワライドもコロナウィルスの影響は大きいです。今は大変な状況ですが、コロナウィルスが落ち着いた後にはたくさんの方にまた足を運んでもらいたい、旭山動物園だけじゃないこの上川エリアの魅力、大雪山の大自然をたくさんの方に味わってもらえたらと思っています」

自分の興味のあること、好きなことを突き詰める性格の杉浦さんは、もちろんアサヒカワライドをさらに進化させるべく、この状況の中でも日々勉強と行動を続けています。その1つが「スキホの会」というNPO法人の理事としての活動です。この会の正式名称は「スキーホリデーで冬季滞在型観光を振興する会」です。旭川、そして周辺の上川エリア一帯を、ウィンタースポーツを通じてひとつの巨大なスノーリゾートと捉え、そうした地域の魅力を活かしてまちを活性化していこうという目的の団体です。
そして、北海道アウトドアガイドという資格もとるべく勉強中、さらにはゲストハウスの改装を通して不動産やリノベーション、建築といった分野にも興味を持ち始めたというから、その好奇心には本当に驚かされます。

5D3A1782.JPGレンタル用の機材も充実
最後に、数あるアウトドアアクティビティの中でも、杉浦さんのお薦めの楽しみ方を聞いてみました。
「うーん、もちろん夏のサイクリングや冬山でのスキーも楽しいですが。夏の大雪山を縦走することもお薦めしたいですね。できれば3日くらいの休みをとってまる2日はかけて山を楽しんで欲しいですね」 

将来はアサヒカワライドを上川エリアのアウトドア情報が集まるアクティビティセンターにしたいと語っていた杉浦さんにとっては、アサヒカワライドの立ち上げはまだまだ登山口を登り始めたところに過ぎないようです。どんどん進化を続ける、上川エリアを盛り上げるアウトドアの拠点から今後も目が離せません。

tmp_1548594626815asahikawaraido.jpg大雪山旭岳にて。「スキホの会」で招いた、元オリンピックアメリカ代表を含む4人のスキーヤーとともに

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