今こそ“耳の旅行”を

三才ブックス刊、1200円+税

 本書は、ラジオ番組の改編期である4月と10月に刊行されるムック本の最新版である。北は北海道から南は沖縄まで日本全国のAM局とFM局、合わせて103局の最新タイムテーブルが掲載されている。端的にいうと、ただそれだけの本である。ラジオを聴く習慣がない者には、無意味で無機質な情報の羅列にすぎない。しかし、同じ情報が、好事家には垂涎の的となるのだ。

 中学時代、休み時間になると、教室の片隅で「JR時刻表」(交通新聞社)を広げてほくそ笑む同級生がいた。心ない多数派の生徒たちは、その姿を訝し気に眺めていた。同調圧力に抗えず、「何が面白いのかな?」と一緒になって茶化していたが、本当は私も「あっち側」の人間だった。

 小学生の頃から、ペナントレースの開幕に合わせて毎年刊行される「プロ野球全記録」(実業之日本社)が愛読書だった。プロ野球選手の年度別成績が列挙されているだけの本だったが、ボロボロになるまで読み込んだ。40代も半ばに差し掛かり、昨夜の夕飯の記憶すら覚束ないが、当時覚えた掛布雅之選手や清原和博選手の打撃成績は今でも諳んじることができる。

 中学生になると、記録を覚えるだけでは飽き足らず、「プロ野球全記録」を参照しながら、架空の野球選手の生涯成績を作成するようになった。ラジオに耽溺するようになったのも、その頃だった。一番のお気に入りは、大阪のABCラジオで放送していた「誠のサイキック青年団」。日曜深夜にラジカセから流れる北野誠さんと竹内義和さんの邪推と妄想は、独り善がりな趣味嗜好を持つ中学生との親和性が高かった。

 本書は、タイムテーブルが大部分を占めるが、巻末では「熱きローカルラジオ」と題して、11人のローカルラジオのパーソナリティにインタビューを敢行している。その11人目のパーソナリティとして登場する、頭髪の生え際ともみあげに白髪がめだつ中年男こそ、ラジオを卒業できないでいる30年後の私である。

 紙面では、KBS京都ラジオ「角田龍平の蛤御門のヘン」の聴きどころを問われ、いけしゃあしゃあと次のように答えている。「弁護士という職業上、自分の主義主張に関係なく、例えば不倫した人の弁護もすれば、された側の弁護もします。この立場だったらこういう主張もできるけど反対側の立場だったらこんなふうにも言えるよね、というトレーニングを積んでいるのが僕ら弁護士です。(中略)この番組ではいろいろな角度の物の見方を示していきたいですし、それがじっくりできるのがラジオだとも思います」。じっくり喋ることができるので、パーソナリティの人格がだだ洩れになるのがラジオの醍醐味である。

 スマホにradikoというアプリをダウンロードして、月額385円支払えば、全国のラジオが聴ける。本書をガイドブックに、radikoでローカルラジオに耳を傾け、各地のパーソナリティの人格と方言に触れ合う「耳の旅行」を、コロナ禍の旅のスタイルとして提唱したい。時刻表を「どこでもドア」に脳内旅行をしていた彼は、時代を先取りしていたのだ。

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角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平 氏

選者:角田龍平の法律事務所 弁護士 角田 龍平

同欄の執筆者は、濱口桂一郎さん、角田龍平さん、大矢博子さん、スペシャルゲスト――の持ち回りです。


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