“フルーツ王国”といわれる福島県で、ワインに加え、リンゴやモモ、ナシを原料にしたリキュールなどを製造する「ふくしま逢瀬(おうせ)ワイナリー」(福島県郡山市)。東日本大震災から10年が経過した今でも風評が残る中、6次産業化の有効性や福島産ワインの未来について話を聞いた。

郡山の中心街と猪苗代湖のほぼ中間地点、自然豊かな逢瀬町多田野に9000平方メートルの広大な敷地を持つ「ふくしま逢瀬ワイナリー」。福島県の果樹農業の6次産業化を支援するため、三菱商事復興支援財団が郡山市と連携して2015年10月に設立した。


豊かな自然に囲まれた「ふくしま逢瀬ワイナリー」。400坪以上もある平屋の建物内には最新の醸造設備の他、ショップやセミナー室がある 写真提供:ふくしま逢瀬ワイナリー

館内には醸造タンクが29本並び、ブランデーを製造するための蒸留機や圧搾機、瓶詰め用の装置などがそろう。ワインに先駆けて生産したシードルやリキュールは、すでに国内外で高い評価を得ている。2019年には待望のワインが誕生。まだ生産量は少ないが、すっきりとした飲み口が好評だという。

試飲コーナーを併設するショップ、約30人が集えるセミナー室も備える。猪苗代湖への通り道で、近くには名勝「浄土松公園」や温泉地もあるため、観光スポットとしても発展が期待される。

96本ある醸造タンクの総容量は5万リットル
96本ある醸造タンクの総容量は5万リットル

館内のショップは、試飲コーナーも併設。ソフトドリンクもあるので、車での訪問でも福島産フルーツの美味が楽しめる
館内のショップは、試飲コーナーも併設。ソフトドリンクもあるので、車での訪問でも福島産フルーツの美味が楽しめる

高品質な福島産フルーツで多数の賞に輝く

東日本大震災で発生した福島第1原子力発電所の事故によって、福島県は風評に悩まされ続けている。特に農作物や魚介類など、直接口に入る生鮮食品は消費者から敬遠されることが多い。品質の良いものまでが、安価で加工用に回されることも少なくなかった。そうした状況下で、生産者(1次産業)が加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)までを一体化して手掛けることで、付加価値を生み出す6次産業化(1×2×3)は有効な施策の一つだ。

ふくしま逢瀬ワイナリー設立時から、郡山市が中心となって、ワイン用ブドウを手掛ける市内の栽培農家も支援している。ワイン用ブドウの収穫までには3年ほど掛かるため、ワイナリーではリンゴを発酵させたシードル、モモやナシを原料にしたリキュールの製造から始めた。

福島県産のリンゴ「ふじ」を発酵させた「CIDRE」は、2016年収穫分から国内外で多数の賞を獲得。18年産で製造した「CIDRE 2018」は、「フジ・シードル・チャレンジ2020」で最高賞に輝いた。リンゴのブランデーに果汁を加えた「OUSE POMME(ポム)」は「インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション(IWSC)2019」のスピリッツ部門で銀賞を受賞し、リンゴのリキュールとしては最高得点を記録している。

フジ・シードル・チャレンジ2020で最高賞を受賞した「CIDRE 2018」は売り切れになっていた
フジ・シードル・チャレンジ2020で最高賞を受賞した「CIDRE 2018」は売り切れになっていた

敷地内にある「ワイン用ブドウ実証圃場」も公開している 写真提供:郡山市
敷地内にある「ワイン用ブドウ実証圃場」も公開している 写真提供:郡山市農林部

醸造責任者を務めるのは、日本ワインの本場・山梨などで25年以上の経験を持つ佐々木宏さん。「僕らは農家さんが大切に育てた果実を預かり、丁寧に仕上げているだけ」と謙遜しつつ、明るい未来を予想する。

「酒の良しあしの8割から9割は材料で決まる。福島のフルーツは本当に素晴らしく、果実酒の原料としてもポテンシャルはものすごく高い。これから生産量が増えていくワインにも、ぜひ期待していてほしい」

ブランデーなどを造るドイツ製蒸留機について説明する佐々木さん
ブランデーなどを造るドイツ製蒸留機について説明する佐々木さん

新たな挑戦「自分のブドウだけのワインを」

待望のワイン「Vin de Ollage(ヴァン デ オラージュ)」は、震災から8年後の2019年3月から販売を開始した。福島の方言で「自分の家」を意味する「おらげ」をもじった「オラん家のワイン」だ。

中央の2本が「Vin de Ollage 2019」の赤と白。右は会津若松産ブドウで造るロゼのスパークリングワイン「MUSCAT BAILEY A & STEUBEN ROSE 2020」で、左は「CIDRE 2017」
中央の2本が「Vin de Ollage 2019」の赤と白。右は会津若松産ブドウで造るロゼのスパークリングワイン「MUSCAT BAILEY A & STEUBEN ROSE 2020」で、左は「CIDRE 2017」

初年度は6軒だった栽培農家も現在は13軒になり、収穫量と品質も順調に伸びている。

「まだ若木のため、みずみずしいブドウの特徴を生かして醸造している。すでに糖度が高く、“これは!”と思うほど出来の良いブドウもあるので、近いうちに国内のどの産地にも引けを取らないワインに仕上げられると思う」(佐々木さん)

実際にワインができたことで、「もっとおいしいワインにしたい」と栽培農家のモチベーションもさらに高まっている。今では「自分の育てたブドウだけで造ったワインを飲んでみたい」と意気込む農園も出てきているという。

郡山市中田町にある「中尾ぶどう園」のワイン用ブドウ畑。45年以上もブドウを手掛けているが、ワイン用は2016年に始めたばかり 写真提供:郡山市
45年以上の歴史を持つ「中尾ぶどう園」(郡山市中田町)は、2016年からワイン用ブドウの生産に乗り出した 写真提供:郡山市農林部

2020年11月に代表理事に就任したばかりの河内恒樹さんは、商社マン時代に酒類を扱った経験はないが、飲む方は大好きだという。ただ、「今ではもっとちゃんと味わって、大切に飲むべきだったと反省しています」と苦笑いする。

「農家さんの丁寧な仕事ぶり、研究熱心さには本当に頭が下がる。郡山は明治時代まで “不毛の地”といわれていたが、猪苗代湖から安積疏水(あさかそすい)を引いて、実り多き土地に変貌させた。その開拓者精神が今も息づいていると感じる。きっとワイン用ブドウへの挑戦も花開くでしょう」

中尾秀明さんも「うちのブドウだけで造ったワインが飲みたい」という一人 写真提供:郡山市
「自分で作ったものでお酒ができるというのは魅力的」という中尾秀明さん 写真提供:郡山市農林部

郡山産ワインで福島の魅力を世界にアピール

実は河内さんは郡山市出身で、高校卒業まで逢瀬川沿いで育った。震災当時はドイツ駐在中で、タクシーのラジオから聞こえてきた原発事故のニュースに涙があふれ出したという。海外ではほとんど耳にすることがなかった“Fukushima”という言葉が、ネガティブな響きで連呼されることが悲しくてしょうがない。「故郷が無くなってしまうのでは……」と激しく動揺し、遠い空の下で何もできない自分が歯がゆかった。

その後はタイ・バンコクに赴任したが、三菱商事復興支援財団が故郷・郡山にワイナリーを創設すると知って「いつか自分が働く場所だ」と確信した。しかも、親しみある「逢瀬」の名まで冠することになったのだ。

その希望がかなった今、「自分にとっても新しい挑戦。国内外で培ったキャリアを生かし、地元で働く高校の同窓生などとも連携しながら、このワイナリーと郡山、そして福島を盛り上げていきたい」と意欲を見せる。

「Vin de Ollage 2019」を手にする河内代表(左)と佐々木さん(右)
「Vin de Ollage 2019」を手にする河内代表(左)と佐々木さん(右)

最近は、栽培農家にも酒販免許の取得を勧めているそうだ。「自分たちが育てたブドウで造ったワインを、自分たちの農園でも販売してもらう。それが本当の6次化だと思っている」(河内さん)。実現すれば、まさに“オラん家のワイン”となる。

ふくしま逢瀬ワイナリーの酒が国内外で高い評価を得ることで、“Fukushima”の響きをポジティブなものに変え、風評を軽減していける。世界中に名産地があるワインの品評会はレベルが高いが、開拓者精神あふれる郡山の人々なら、粘り強く挑戦を続けていくだろう。

中尾ぶどう園のワイン用ブドウも年々品質が向上しているという 写真提供:郡山市
中尾ぶどう園のワイン用ブドウ。品質は年々向上しているという 写真提供:郡山市農林部

ふくしま逢瀬ワイナリー

  • 住所:郡山市逢瀬町多田野字郷士郷士2
  • 営業時間:午前10時~午後4時
  • 定休日:月曜日
  • 料金:見学=無料、試飲=1杯300円~
  • アクセス:JR郡山駅から車で30分

取材・文・写真=ニッポンドットコム編集部

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