Amazonがバーチャルツアーの目的地になろうとしている。

同社は目下、9月末に提供を開始した新しい「バーチャル体験」のマーケットプレイス「Amazon Explore(アマゾン・エクスプロア)」のセッションを担当するホストとして、スタイリスト、シェフ、絵画講師やツアーガイドたちの採用を進めている(※現時点でAmazon Exploreを利用できるのは米国内からのみ。ページも日本語には非対応)。

Amazon Exploreは表面上、エアビーアンドビー(Airbnb)の「Online Experiences(オンライン体験:Airbnb日本語サイト)」プラットフォームと、それこそレイアウトに至るまでほぼ瓜二つだ。ユーザーは、大陸ごとに分類されたさまざまなライブストリーミングセッションのなかから、料理教室や心霊ツアー、ファッションチュートリアルなど、好きなものを選んで予約できる。しかしExploreはAmazonにとって、ホスピタリティ産業にディスラプト(創造的破壊)をもたらそうという試みではなく、より親近感を醸し出せる、新たな商品販売モデルの実験であるようだ。

バーチャルガイドたちはそれぞれ何かを教えたり、有名な史跡を案内したりするが、同時にスクリーン上のショッピングホスト役も兼ねる。Exploreで配信される動画のほとんどに小売機能が埋め込まれており、ガイドはそれを通じて自身のプロダクトを販売する。商品販売の新戦略を模索するAmazonにとって最新の試みだ。新しいホビーや土地に触れさせることで、Amazonはユーザーに新たな、より親しみを感じられる買い物の手段を提供している。

Exploreのセッションはすべて1対1の形式をとる。音声は双方向だが、カメラに姿が映るのはツアーガイド側のみだ(顧客側のカメラはオフのまま)。セッションは1回30~60分のものが中心で、料金は1分1ドル前後。DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)が取材したホストたちは、具体的な取り分を明かさなかったが、フルタイムの収入に匹敵するほどではないという。ExploreはEssence of Berlin(エッセンス・オブ・ベルリン)などの中規模ツアー会社と提携しており、そこにはたとえば、ベルリン市内の冷戦時代の史跡をたどるリモート版のウォーキングツアーなどを持ち回りで担当するガイドがいる。その一方で、単発の個人ガイドが担当する企画もある。

親近感がExploreのセールスポイントだ。「パンデミックが起こる以前から、買い物客がより意味のある体験を求める傾向が強まっていた」と、カンター(Kantar)でeコマースアナリストを務めるレイチェル・ダルトン氏は話す。「体験はプロダクトに勝るという考えだ。ただ商品を購入するだけに比べて、体験はより持続的な意味を人生にもたらす」。

体験とプロダクトの両方を売る

Exploreは、人々が新しいホビーを試す手段という看板を掲げる一方で、彼らに商品を購入してもらうことも狙っている。たとえば料理教室では、シェフがExploreでサルサソースやパエリアの作り方を教えるが、それと同時に、自身がセッションで用いる包丁やまな板、スパイスなどの商品を販売する。販売はオプションとなっているため、ツアーガイド全員が何かを売るわけではないが、売ることを選択した場合、セッションに販売の要素が組み合わされることになる。

自身の実店舗で扱っている服を販売するようなスタイリストもExploreでは目立つ存在だが、ホストの大半は東京やベルリン、バルセロナといった人気の都市にいる従来的なツアーガイドだ。Amazonは以前にも旅行ビジネスに参入したことがあるが、成功しているとはいえない。2015年には、宿泊予約のマーケットプレイス「Amazon Destinations(アマゾン・デスティネーションズ)」を短期間で終了している。また2019年には、インドで航空券予約サービスを開始している。

しかしホスピタリティ業界の専門家は、Exploreを旅行業界への大規模な進出とはとらえていない。エクスペディア(Expedia)やブッキング・ドットコム(Booking.com)に対抗するつもりなら、Amazonはプラットフォームを完全に作り変えなくてはならないと、オンライン旅行会社のTravoTech(トラボテック)の共同創設者、マーク・ファンコート氏はいう。「Amazonのような企業とエクスペディアのような企業の違いは、エクスペディアが環境全体を水物の在庫を扱うために構築している点であり、それをやるのはひと仕事だ」と、ファンコート氏は述べる。「水物の在庫」とは、たとえばホテルの部屋など、販売できるものが時期に大きく左右されるという意味だ。

より可能性が高いのは、Amazon Exploreが小売商品の新たな販売経路となることだ。「私にはExploreが、旅行や販促の一手段というよりも、従来的な小売の一手段であるとの感が強い」と、ファンコート氏は述べた。

ガイドのチームを構築する

ガイドたちはセッションを提供することを、Amazonの大規模なリーチを利用して自身の名前を売る手段ととらえている。Exploreは目下のところ非常に独占的で、ガイドはAmazonが直接採用し、トレーニングを施している。これは参加ガイド全員が、Exploreのページ上に目立つ場所を与えられることを意味する。Exploreのセッションで得られる売上はフルタイムの収入にはほど遠いが、それでもガイドたちは、Amazonのリーチを利用して知名度を上げようとの狙いもあって参加している。

ただし、Amazonはバーチャルツアーからかなりの手数料を徴収している反面、プロダクト販売からは取り分を要求しない。すべての商品をAmazonを通して販売する必要はないが、決済処理はAmazonが受け持つ。あるホストによると、Amazonからは、セッションが何よりも学ぶことに主眼を置いていると感じられるようにしてほしいと念を押されているという。

また、モダンリテールが話を聞いたあるホストによると、Amazonからは唯一のルールとして、1回のセッションで800ドル(約8万3500円)を超える価格の商品を販売してはいけないと言われているという。たとえばある絵画講師の場合、自身の作品をAmazon Exploreで販売することはできなかったが、著作や絵の道具を販売することはできた。

それだと年間平均収入が2500ドル(約26万円)前後というエアビーアンドビーのオンライン体験のホストと同じくらいの実入りになりそうだ。どちらの場合もメインの収益源は、それをきっかけにホストの本業に直接お金を使ってくれる顧客となる。

Amazonは、たとえセッションを通じて販売される商品から直接利益を得られなくても、新しいホビーや土地を顧客に紹介する場所として自社プラットフォームを利用することに明らかに価値を見いだしている。Amazon Live(アマゾン・ライブ)プラットフォームへの投資を増やしたり、リアリティ番組の「メイキング・ザ・カット~世界的デザイナーを目指して~)」をファッションのショッピングチャネルに変えようとしているのと同様に、Amazonは新たな販売経路を積極的に模索しているのだ。

ExploreにおけるAmazonの最終的なゴールは、主に顧客とAmazonとの結びつきを深めることだと思われる。Amazonは単なるモノを売る場所以上の存在を目指しているとダルトン氏は指摘し、その点でExploreはうまく中間を狙っているという。Amazonがeコマースだけのプラットフォームから脱却するのを助ける一方で、eコマースの要素を完全に捨て去ることもしていないからだ。

「顧客がただ単にAmazonを訪れて、目当ての商品を見つけたら去るというのでなく、そのままAmazonにとどまり、Amazonのエコシステム全体が提供するほかのもの、たとえばExploreなどを発見することを目指しているわけだ」と、ダルトン氏はいう。「すると顧客はこう考える。『ちょっとAmazonのサイトで時間を過ごして、ほかにどんなサービスを提供しているのか見てみよう』」。

[原文:How Amazon Explore is trying to mix experiences with commerce]

MICHAEL WATERS(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:長田真)


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