同志社香里中学校・高等学校(大阪府寝屋川市)は半世紀ほど前から、学校周辺の社会や文化を調査する「体験活動」に力を入れてきた。社会とのつながりを考える教育の伝統は、授業だけでなく、「起業家教育」や「プロジェクト型学習」「模擬裁判」などの活動に幅広く受け継がれ、生徒たちは専門家やプロの指導に刺激を受けながら、自分たちの可能性を広げているという。さまざまな活動を支える教諭たちと生徒の声を紹介する。

お客さんにいかに受け入れられるかを考える

自身が企画した海外旅行について発表する吉岡さん(右端)

 中学3年生の吉岡和奏(わかな)さんと豊倉稜太(りょうた)君は1年生のとき、社会の授業で「海外旅行の企画を売り込もう!」という課題に取り組んだ。各生徒がそれぞれ好きな国を選んでツアーを企画するものだ。

 豊倉君は旅行会社でパンフレットをもらって研究したという。「ケニアを調べたんですけど、自然が豊かで動物がいっぱいいて、いいなと思いました」と話す。ドイツを選んだ吉岡さんは、「グリム童話の故郷を訪ねて」をテーマにツアーを企画した。本好きで、一度童話の世界に入ってみたいと思っていたからだ。

 このツアー計画は、タブレット端末のアプリを使ってスライド化し、クラスでプレゼンテーションも行った。クラス代表が出場する学年大会では、旅行会社から審査員を招待して評価を受けた。ツアー内容を5コマの絵コンテで表現したコマーシャルも、映像制作のプロに審査してもらったという。2人は入学希望者が訪れるオープンキャンパスでも発表した。

 吉岡さんはプレゼンテーションで、ツアー料金を30万円以内に抑えたことを強調したという。「いくら豪華なホテルや食事を用意しても、お客さんが申し込みをしてくれなくては旅行会社の利益が出ないため成り立ちません」と感想文につづっている。

 この授業を担当した社会科の藤井宏樹教頭は、「自分が調べて話したいことを発表するのではなく、お客さんにいかに受け入れられるかを考えることが大事です。発想の転換が必要だと生徒には言っています。プロから教えてもらうことも大事。学内で完結しないで、どこかで社会と接点を設けてつなげていきたいと思っています」と狙いを話した。

本当に必要な情報を選び取る力

「生徒をいかに本気にさせるかが大事」と話す藤井教頭
「生徒をいかに本気にさせるかが大事」と話す藤井教頭

 同校OBでもある藤井教頭は在学中、大阪や京都にある駅前商店街やレジャー施設を生徒だけで調査する「フィールドワーク」を経験した世代だ。背景には「学校と社会が乖離(かいり)している状態がそもそもの間違いだ」という先輩教師たちの思いがあったという。1986年に母校で教え始めてからは、その取り組みを発展させ、「起業家教育」や「プロジェクト型学習」を試行錯誤しながら実践してきた。

 例えば、中3を対象にした「会社を作ろう!」という授業では、ビジネスのアイデアを考え、実現するには何が必要かを考える。「お金もうけの方法ではなく、身の周りの課題を見つけ、その解決のため継続して取り組むことができる仕組み作りが大切だと理解してもらいたいんです」と藤井教頭は話す。生徒たちが考えたプランに対して、会社経営者や税理士などからアドバイスをもらう機会も設けている。

 「環境NGO/NPOを作ろう!」という授業では、環境問題に取り組むNGO、NPOのメンバーに生徒へのアドバイザーを依頼した。「ネットで調べたり、電話をかけたりして大阪、京都だけで10人に協力してもらいました」。藤井教頭は「大人になったとき、こういう仕事に就く人もいるよね、というのを生徒たちに見せておきたいんですよ」と授業の狙いを話す。

 「社会科は暗記科目じゃありません。情報はインターネットにもガイドブックにもあふれている。『情報編集力』という言葉がありますが、大切なのは本当に必要な情報を選び取る力を身に付けることです。他の人に魅力を伝えるために必要な情報を選ぶ力も大事だし、的確に伝える力、表現力も必要です」と藤井教頭は語る。

泊りがけで弁護士に「裁判」を学ぶ

同志社大法科大学院の模擬法廷で、四国の高校と行った「交流戦」
同志社大法科大学院の模擬法廷で、四国の高校と行った「交流戦」

 藤井教頭はこれらの学習について「生徒をいかに本気にさせるかが大事」だとし、「学内で発表して終わりでは、本気になりません」と言い切る。その意味で、まさにプロの指導を受けながら他校の生徒たちと本気で挑んでいるのが「高校生模擬裁判選手権」だ。コロナ禍のため今年は中止になったが、毎夏開かれる大会では主催する日本弁護士連合会が、生徒たちのトレーニングのために弁護士などを各校に派遣している。

 高校生模擬裁判選手権は、ある架空の事件を素材に、参加各校が検察、弁護の各チームに分かれて、証人尋問や被告人質問などを行って優劣を競う。同校は大阪地裁で開かれた関西大会で2回の優勝を誇る。全国大会は行われていないため、関東や四国大会の優勝校と交流戦を行ったり、立命館高校と「同立戦」を戦ったりと他校と切磋琢磨(せっさたくま)してきた。同志社大学法科大学院の協力を得て、常設の「模擬法廷」を使用できるのも強みだ。

 塚野(ひかり)さんと、石井莉乃(りの)さん(ともに高3)は、高校1年生の時から大会に参加してきた。塚野さんは「部活をやっていなくて、何かをやりたいと思っていました。一夏一つのことに皆で取り組む活動が、自分に向いていると思いました」と話す。「大阪弁護士会の弁護士さんがたびたび練習に来てくれて、本職の立場、目線から、『いや、ここはおかしい』とか『論理が通ってない』などとご指導いただきました」。塚野さんはこうした指導に刺激を受けるうちに活動に力が入り、今はリーダーを務めるようになった。

 「最初は、まったく興味がなかった」という石井さんも、「取り組んでいくうちに面白くなっていった」と話す。「法律の勉強というより、ある題材から有罪、無罪を主張する論理を組み立て、尋問でどうやって相手から言葉を引き出すかを考えるのが面白い」。検察と弁護に分かれて試合形式で行う練習では、白熱するあまり、険悪な雰囲気になることさえあるそうだ。

模擬裁判について話す西村教諭
模擬裁判について話す西村教諭

 2008年の初参加の時も担当した社会科の西村克仁教諭は、「生徒のいろんな可能性を広げようという意図がありました」と話す。「『クラブも何もやってないので』と模擬裁判に来る子が多いんですよ。教室では地味な子たちが、熱中できることを見つけたら、こんなにのめり込むんです」と目を細める。毎年、20人ほどが集まるという。

 生徒の熱意に押され、夏には2泊3日の合宿を2回行うこともある。指導役の弁護士の中には、普段の授業やキャリア教育の場にゲストスピーカーとして来てくれる人もいるという。西村教諭は「生徒が熱いので、香里を好きになってくれる」と話す。「師弟関係になるというか、プロの尋問に圧倒され心酔して、法曹関係に行きたいという子も出てきました」。実際、模擬裁判に参加した生徒で、企業の社内弁護士になった卒業生もいる。

 同校は、同志社大学、同志社女子大学への進学率が約98%(今春の卒業生297人中291人)に及ぶ。受験勉強に追われることのない大学系列校だからこそ、さまざまな活動にじっくり取り組める。

 「初めは一夏参加する程度の活動と思っていましたが、1年間通してのクラブ活動のようになってしまいました。クラブ活動じゃなくても、好きなことに打ち込める。当校のもう一つの可能性を表現してくれているのではないでしょうか」と西村教諭は語った。

 (文・写真:井澤宏明 一部写真提供:同志社香里中学校・高等学校)

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