ジュネーブの歴史的な五つ星ホテル「ル・リシュモン」の従業員たちは、新型コロナで解雇の危機にある Keystone / Martial Trezzini

外国人観光客や国際会議のビジネス客に大きく依存するジュネーブのホテル業界。新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な打撃を受けている。

このコンテンツは 2020/07/05 08:30

「新型コロナの影響を否定するつもりはない。コロナでホテルが赤字になり得ることも理解できる」。ジュネーブの5つ星ホテル「ル・リシュモン」で働くシルヴァンさん(仮名)は話す。「だが、億万長者の所有するホテルが従業員に何の救済策も示すことなく全員解雇するのは許容できない」

ジュネーブ湖畔のこの超高級ホテルで今、シルヴァンさんを含めた141人の従業員が解雇の危機にある。

ホテルは操業短縮制度を申請し、スタッフの大半は3月から部分的に失業保険を受けている。だが経営陣は5月下旬、これ以上の損失を抑えるために臨時休業する意向を発表した。4月と5月のホテル稼働率は10%だった。解雇を回避し、少なくとも社会的な支援策を求めて、従業員たちは地元の労働組合をとして調停交渉を開始した。

ジュネーブを基盤とし、異業種で働く労働者を広く受け入れている合同労働組合「SIT」の秘書を務めるマルレーヌ・カルヴァロザ・バルボザ氏は、「リシュモンホテルのケースは、同じ状況に置かれた人たちにジュネーブがどう対応するかを示す、象徴的なケースになるだろう」と話す。「どのホテルも、『雇用を維持できるよう努力しているが、犠牲も払わなければならない』と言うばかりだ」

コロナ危機の中、労組の電話はひっきりなしに鳴り続けた。ロックダウン(都市封鎖)の間、ホテルの従業員は有給休暇の消化や残業時間の相殺を強制されたり、操業短縮中にもかかわらず出勤を求められたりしたという。

ロックダウン中には、ジュネーブのホテルやレストランで働く約1万5千人のうち約1万3千人が操業短縮制度で補償を受けたとみられる。この制度で従業員は、労働時間短縮で失った賃金の8割を失業保険で受け取ることができる。だが低賃金では生活費の高いジュネーブでの暮らしは厳しい。フルタイムのホテル従業員の月収が4500フラン(約51万円)を超えることは少なく、多くの人が月収3400フラン程度で働いている。

ビジネス旅行

スイス全体では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年の宿泊数は約3分の1落ち込み、ホテル業界は18億フランの損失が生じると予測されている。

特に都市部での影響が大きく、中でもジュネーブは深刻な打撃を受けている。近年はスイスで2番目に多い宿泊数を記録していたジュネーブだが、コロナ危機中の宿泊率はゼロに等しかった。ホテルは閉館し、ほとんどの予約が6月までキャンセルされた。

ジュネーブのもう一つの最高級ホテル「グランドホテル・ケンピンスキー」のチエリ・ラヴァレー総支配人は、「壊滅的だ。ジュネーブはもっぱらビジネス旅行客に頼っているから。大規模な総会や国際会議、国際機関や金融機関に関連したビジネス客は、宿泊全体の75%近くにも上る」と言う。

「今日、ビジネスは完全に麻痺している。見本市会場パレクスポでの大規模カンファレンスは12月31日まで全て中止。国際企業の多くが、社員に年内の出張を見送るよう言い渡している。2020年はもうダメだ」

コロナ危機により、ジュネーブで予定されていた国際会議やイベント約300件が中止になっている。その損失は数百万フランにも上っている。

現在、ジュネーブのホテル125軒のうち60軒がいまだに営業を再開していない。ロックダウン中、ピーク時には市内84%のレストランやホテルが休業した。新型コロナのスイス観光産業への影響を調べた最近の調査によると、ジュネーブのホテルは平均して3~4月に170万フラン、5~6月に100万フランの損失が生じている。

調査ではまた、倒産リスクもジュネーブのホテルやレストランで最も高いことが明らかになっている。35%に倒産の可能性があるという。

ジュネーブ・ホテル協会の会長も務めるラヴァレー氏によると、営業再開したホテルの大半はわずかな宿泊客しかなく、この夏の稼働率は5~8%程度になりそうだという。「多くのホテルが損を出しながら営業している」

良い兆し?

スイスは6月15日、感染拡大状況に改善が見られたとして欧州近隣数カ国との国境制限を解除した。現時点では米国や日本を含むシェンゲン協定外の国からの入国は認められていない。その他の国は7月以降、段階的に制限が解除される見通しだ。

ジュネーブ空港は数カ月間ほぼ停止状態にあったが、6月15日には2500人が利用した。だが例年のこの時期の利用客は、1日4~6万人。ジュネーブ空港は2020年の利用客数が前年比で7~8割減になると見ている。

ジュネーブ観光局のアドリアン・ジュニエ局長は、「7~8月にはわずかに回復が見込めるかもしれないが、問題は9~11月だ」と言う。

先ごろ公表された新型コロナ危機への対応を評価した世界ランキングでは、スイスが「最も安全な国」に選出された。観光客を呼び込む良い宣伝材料になったと言うものの、ジュニエ局長は現実的だ。

「ジュネーブ訪問客の8割は外国人、それも大半が米国や英国、ペルシャ湾岸諸国からの観光客。だがこれらの国からの入国はまだ制限されている」

では国内客は?

スイス観光局や政府は、今年はスイス人が国内で休暇を過ごしてくれることを期待している。だが、国内客はグラウビュンデン州やヴァレー(ヴァリス)州の山々に行くよりも、ジュネーブの町を散策するほうを好んでくれるだろうか?

状況を打開し観光客を呼び込むため州政府は、この夏ジュネーブに滞在する国内客を対象にした宿泊費割引(通常価格の3分の1)を検討している。そのための予算は450万フランで、これから州議会の承認を受ける必要がある。

ラヴァレー氏はこの案を歓迎するものの、将来については悲観的だ。

「経済回復の見通しはかなり不透明だ。一般的に言って、真っ先に危機に陥るのはホテル業界だが、危機から抜け出すのが一番遅いのはホテル業界。危機は、単に3カ月のコロナ禍の話ではない。その弊害は途方もない。数カ月、もしくは数年間続く可能性がある」

そして、政府が9月以降も最低1年間は操業短縮制度の救済策を継続しなければ、現在給料の一部を失業保険で補償されている人たちが失職し、経済的大惨事になるだろうと付け加えた。

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