新型コロナウイルスの流行拡大で2020年訪日外客数が激減しており、6月16日に発表された観光白書には、訪日外国人客を2020年に4,000万人にするという政府の数値目標の記載がなくなりました。

インバウンド産業を取り巻く環境が激変しているのは日本のみならず、日本にとって近い存在である台湾も同じ状況に直面しています。

台湾政府が、新型コロナウイルスによるインバウンド市場の縮小を考慮し、2025年の訪台旅行客の目標値を1,600万人から1,300万人に下方修正し、観光業の生産額も1.2兆元(約4兆3,323億日本円)から9,200億元(約3兆3,214億日本円)に下方修正したと発表しました。

一方、いち早く新型コロナウイルスを封じ込むことができた台湾は、いままでにない「国内旅行ブーム」が到来し、大きな転換期を迎えています。

この記事は、コロナ禍で台湾の観光業が起きている変化とトレンド、また国内旅行需要喚起中の日本にどのような示唆をもたらすのかについて整理します。

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コロナ禍の台湾の観光業事情

まずは台湾におけるインバウンドとアウトバウンドの事情をおさらいし、コロナ禍がもたらした変化を整理します。

台湾のインバウンド事情

台湾は2019年から「観光立国」を政策にあげて、訪台外国人市場の開拓や、モバイル決済やオンライン乗車券の観光スマート化、外国人の受け入れ環境整備に重点を置いた施策を推進しています。

2019年の訪台外国人客数は過去最高を更新し、前年比+7.21%の1,186万人に達しました。

2019年のインバウンド消費額はまだ公表されていませんが、2018年のインバウンド消費額は137億ドル(約1兆4,550億日本円)であったため、それより上回ると予想されています。

主要な観光客は中国が1位で、続いて香港、日本、韓国、マレーシアといった順となっています。

また、中国との政治的関係の変化により、蔡英文政権の元で経済における中国偏重を是正する「新南向政策」が実行され、ビザ緩和など東南アジア観光客の誘致を強化しています。

ただし新型コロナウイルス感染拡大を防止する一環として外国人に対する入国制限措置は現在も継続されているため、2月から訪台客が大幅減少し、7月はわずか11,748人で、インバウンド市場がほぼ消失した状況となっています

▲[2019年9月〜2020年7月までの月別訪台客人数推移]:台湾行政院主計総処

台湾人の旅行事情:海外旅行と国内旅行の動向

アウトバウンド市場においては、台湾人出国者が年々増加しており、2019年の出国者数は延べ1,710万人を突破し、出国率が72%までに上りました。

一人あたりの消費額は47,802元(約173,064日本円)で、全体のアウトバウンド消費額は8,175億元(約2兆9,597日本円)に達しました。

一方、台湾人の国内旅行市場規模は3,927億元(約1兆4,217億円日本円)とアウトバウンド市場の半分しかなく、一人あたりの消費額も2,320元(約8,399日本円)にとどまりました。

このことから、台湾では国内旅行市場はアウトバウンド市場と比べると小さいことがわかりました。

また、グランピング宿泊で有名な「勤美學CMP Village」のCEO何承育は、国内旅行産業は長い間中国の団体客に偏ってきたため、低単価で量を追求するあまり、魅力ある観光資源が育たず、国内旅行市場が伸びないという悪循環に陥っていたと指摘しました。

しかし、新型コロナウイルスで状況が一変し、消滅したアウトバウンド市場が国内旅行市場に流入しており、いままでにない「国内旅行ブーム」が到来しています

コロナで国内旅行市場が3倍に

新型コロナウイルスをきっかけに、台湾の国内旅行の市場規模は3倍の1.2兆元(約4兆3,323億日本円)に拡大する見通しで、かつてない隆盛期を迎えていると現地のメディアによって報道されています。

なぜ国内旅行がブームになったのか、下記の要素が考えられます。

まず、新型コロナウイルスの市中感染を早期に防ぐことができたため、6月7日にはすでに国内では規制が大幅に緩和されており、早い段階で経済活動が再開することができました。

こうした状況により、日本よりも「自粛ムード」を早く終えられたものと考えられます。

次に、政府による国内旅行の需要喚起策「安心旅行補助」が7月1日から実施され、団体旅行や個人旅行に対する宿泊割引、地方自治体への特別観光イベント開催補助などをしています。

そして、時期的にも端午節や夏休みなど大型連休と長期休暇があり、外出しやすいタイミングでした。

さらに台湾社会全体で、自粛期間で抑制されていた旅行に対する「リベンジ消費」の意欲が高まっています。

最後に、これまで台湾人による活発だった海外旅行は新型コロナウイルスによる渡航制限でできなくなり、8,175億元(約2兆9,597日本円)のアウトバウンド消費をもつ海外旅行者が国内旅行に回帰することで需要が増加し、国内旅行市場が一気に3倍に拡大しました。

台湾の国内旅行はいままでにないブームになっているなか、4つのトレンドが観察されています。

1. 「高単価客」が国内旅行の担い手へ

まず、高い消費力をもつ海外旅行者は出国できなくなった一方、旅行に対するニーズが依然としてある彼らの目が国内旅行に向けることになり、国内旅行市場の需要と供給に大きな変化を与えました。

さらに巣ごもりのストレスから解放したい「リベンジ消費」の心理に加え、「旅行のために出費を惜しまない」という現象が起こっています。

Agodaの調査によれば、今回の国内旅行ブームで4つ星と5つ星の高級ホテルがもっとも人気を博し、次はリゾート村です。

台湾観光局による「観光旅館運営統計」からも、新型コロナウイルスの影響で宿泊業界全体が大きな打撃を受けているものの、1泊1万円以上(約3万6,000日本円)の高級ホテルの客室稼働率が全体平均を上回っていることがわかりました。

去年台湾で開幕した星野リゾート「虹夕諾雅谷關(星のやグーグァン)」は1泊2〜3万元(約7万日本円)のハイクラスな価格設定でも、2〜6月の客室稼働率を7〜8割に維持しました。

公式サイトによると、今年年内まではほぼ予約が埋まっており、空室のない大盛況となっています。

「台湾で最も予約困難」星のやグーグァン、日本の事業者初「台中市安心旅宿」認証取得:3つの成功の秘訣とは?

新型コロナウイルスの感染流行により、世界中の観光業界が大きな損害を受けるなか、台湾の台中郊外にある「星のやグーグァン(谷關)」は、2020年2〜6月の客室稼働率を7〜8割に維持しました。また、公式サイトによると、7〜8月の予約は満床で、9月の予約もほぼ埋まっているなど、星のやグーグァンは台湾で今最も予約困難な宿泊施設の一つとされています。▲[台湾の星のやグーグァンの予約状況]:星のやグーグァン公式サイト台湾は新型コロナウイルスの封じ込めに成功したとはいえ、外国人に対する入国制限措置は継続さ…

2. 個人旅行がメインだが、9月から団体ツアーも増加

また、新型コロナウイルスの感染状況の変化とともに、台湾人の個人旅行と団体旅行に対する意向の変化が見られます。

台湾人による国内旅行はもともと個人旅行が多く、約87%を占めています。

また、新型コロナウイルス感染リスクを避けるため、知らない人と大勢で旅行する団体ツアーに参加するより、家族や友だちとの少人数のプライベートツアーを選択した人はさらに増えました。

特に「家族旅行」が人気です。Hotels.comの調查によると、次の旅行は家族と一緒に行きたいと答えた台湾人が43%で、新型コロナウイルスが完全収束したあとも、53%の人が旅行の予算を家族旅行に使う予定と回答しました。

一方、台湾の新型コロナウイルスへの水際対策が成功し、4月11日以降帰国者以外に市中感染がゼロを続けている状況で、団体旅行が少しずつ回復傾向にあります。

加えて、年末は企業の社員旅行やインセンティブ旅行のシーズンであるため、9月以降団体ツアーの予約が増加しつつあります。

3. 穴場の「日帰り」旅行と地方の「長距離・長期滞在」旅行が流行り

また、旅行先と滞在日数において、両極化の現象が起こっています。

新型コロナウイルス感染対策として、近距離の旅行から再開する人が多く、自家用車でいける近隣の日帰り旅行の需要が増えています。

その際に、誰も知る有名な観光スポットより、まだあまり知られていない穴場のスポットを選ぶ傾向が強まっています。

他方、花蓮、澎湖、台東、墾丁、綠島、蘭嶼、金門といった地方への旅行も盛でおり、クルーズで複数の島を回る「郵輪跳島」や台湾一周サイクリングの「環島旅行」など滞在日数が3日間以上もかかる旅行商品が注目を集めています。

こうした長距離・長期滞在の旅行が人気になった理由は2つと考えられます。

一つ目は、新型コロナウイルスが原因で人口密度が高い都市部より、人の密集を避けられる地方は安心に旅行できると考えられています。

二つ目は、長距離・長期滞在の地方旅行が非日常感を醸し出し、特に自由に渡航ができない現在においては海外旅行の代用とされています。

4. 地域ならではの体験を求める「深度遊」が拡大

穴場スポットへのこだわりと旅行日数の増加によって、スタンプラリーのように観光名所を巡るのではなく、旅先の空間にある自然や文化をじっくり体験する「深度遊」といったトレンドが生まれました。

こうした消費者の考えが変化しているなか、地域的自然や文化の特色・資源を発掘し、地域ならではの付加価値をつけた旅行商品の提供が求められています。

前述したグランピング宿泊施設である「勤美學CMP Village」がその一例です。

勤美學CMP Villageは本来無人だった古い遊園地を、所在地である「苗栗」の地元の工芸文化や自然環境と近年台湾のアウトドアブームが融合した、手ぶらでキャンプをすると同時に現地の自然・文化を体験できる、グランピング施設に再生させました。

提供している1泊2日の旅行プランは1万元(約3万6,000日本円)もかかりますが、コロナ禍においても毎回公式サイトで販売を開始するたびにすぐ売り切れてしまうほどの人気を集めています。

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こんにちは、クロスシー編集部です。中国での「海外旅行」ブームについてはこれまで何度か紹介してきましたが、今年も中国人が一年で最も日本に来る「夏」がやってきます。昨年の中国人の海外旅行動向と、今年の夏の旅行傾向について、「深度遊」をキーワードに解説します。目次2018年の中国人の海外旅行傾向は?パスポート所有率は10%超も、まだまだ世界的に見れば低い水準人気の旅行地と観光スポット若年層に広がる”決めたら即出発”の旅、「現地ガイド」需要の高まりと博物館人気「深度遊」とは?テーマ設定・時間をかけ…

台湾、「国内旅行ブーム」の次は?日本インバウンド業界への示唆

新型コロナウイルスの世界的流行により、台湾の観光業も例外なく大きな打撃を受けたものの、国内旅行がいままでにない隆盛期を迎えています。

上述した消費単価の増加や地域的特色のある旅行商品の追求といったトレンドから、過去から低単価・大量製造と呼ばれてきた台湾の国内旅行は「量から質へ」転換しているフェーズにあります。

そして今回の国内旅行産業の方向転換を踏まえて、台湾観光局が8月18日に「Tourism 2025ー台灣觀光邁向2025方案(ツーリズム2025ー2025年に向かう台湾観光施策)」という観光白書草案ではインバウンド回復に備える観光振興の指針を示しました。

具体的には、ポストコロナ時代に向けて、対内では地方の魅力を引き出す観光資源のづくりや受け入れ環境の整備、観光のデジタル化を推進することで、国内旅行の市場規模と品質を向上させることを目指しています。

それと同時に、対外的には台湾観光のブランディング力を強化することで、新たな顧客の誘致と市場規模の拡大を図り、台湾を「防疫大国」から「観光大国」へ向かわせることを目標としています。

台湾の交通部では5月当初、10月1日からをめどに低感染リスク国を中心に、国際観光客の受け入れを段階的に再開することを目指していました。しかし、発言当時から状況が大きく変化したと考えられる現在、続報は未だ発表されていません。

仮に国際観光が再開できた場合は、今回の新型コロナウイルスが台湾の観光業にもたらした危機を回復時の転機に変えられるのか、台湾が一つの先行事例として今後も注目されていくでしょう。

今できるインバウンド対策は「あえて国内」観光業が注力すべき4つの施策とは?

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、国内外ともに観光需要が減退し、日本の観光業は大きな打撃を受けています。特に入国制限により観光目的での訪日旅行はほぼ不可能となっており、インバウンド業界の回復には相当の時間がかかることが予想されます。一方で、インバウンドの回復期は遅かれ早かれいつかはやってくるといえます。そのタイミングを見据え、「今できること」に取り組むことが、回復期の売上や集客を左右すると考えられます。では、インバウンド業界に属する事業者が今できることはなんなのでしょうか。それは「国内…

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<参考資料>

工商時報:觀光局雙降國際旅客人數、產值

行政院主計總處:來臺旅客人次

聯合新聞網:悶壞了!「旅遊花錢不手軟」 3大台灣國旅趨勢出爐

鉅亨網:國人旅遊型態出現四大轉變趨勢 三大熱門景點出爐

欣傳媒:2020上半年國旅大調查 團客最愛澎湖 平日、長天數旅遊成新寵

商業周刊:1.2兆國旅大爆發》一場疫情,竟是台灣低薪、產業升級的解方

經濟日報:報復性消費來了 但國旅一直只能是國旅?勤美學執行長這樣說

交通部観光局:觀光旅館營運統計

交通部観光局:Tourism 2030 觀光政策白皮書總諮詢會議 —人人心中有觀光 部會齊心拚觀光


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