国会議事堂や首相官邸の目の前で「スパイ」が暗躍している THOMAS PETER-REUTERS

<北海道大学教授が中国で拘束されたと報じられているが、日本政府に救出への積極姿勢は見られない。日本は「スパイ天国」。中国があざ笑っている>

今年1月16日午後1時。私は東京・国会議事堂に近いある高級ホテルのカフェにいた。他人の会話を盗み聞きする気はなかったが、隣の席から中国人特有のイントネーションでまくし立てる日本語が聞こえてきた。中国人女性と日本人の初老男性が、コーヒーとケーキを前にして真剣な表情でやりとりしている。

「とにかく自民党の有力な議員たちに働き掛けていただきたいです」と、女性は満面の笑みで迫る。「わしはもう引退しているので、そんな力はないよ」と、男は応じる。

「ぜひ、習主席を新しい時代の最初の国賓として呼んでほしいです」
「それは難しいだろう。日本はもうトランプさんを呼ぶと決まっているし」
「主席の訪日に向けて、良い雰囲気を日本国内でつくってほしいです」

女性は男の手に自分の細い指を乗せて、優しい声でねだっている。「もっと詰めの話をしよう」と男が誘うと、女性もにっこりとうなずく。しばらくしてから、2人はエレベーターに乗ってホテル内の客室階へと消えていった。二流スパイ小説さながらのシーンが眼前に展開されているのを見て、私は茫然とした。

これが「スパイ天国」の東京の現実だ。日本の権力機関の目の前で、白昼堂々このようなドラマが演じられている。女性はある引退した政治家に接近し、彼を通じて習近平(シー・チンピン)国家主席がトランプ米大統領よりも先に日本へ国賓訪問できるよう政界工作をしていたようだ。1人の女性スパイの暗躍でどれほどの政治的効果が生じたか不明だが、これが東京を舞台とした国際政治のワンシーンであることは間違いない。

北大教授拘束でも対応は後手に

6月7日午前8時頃、皇居から近い東京駅の上空を奇妙なドローンが飛んでいたのをパトロール中の警察官が発見。操縦していた男を事情聴取した結果、北京市交通局の50代職員だったことが判明した。日本側は任意取り調べ後、起訴せずに釈放したが、判断が甘いのではないか、という批判が識者から出た。

というのも、北京市交通局は中国政府の肝煎りで整備中の中国版GPS「北斗」の開発に関わっている。北斗と連動して稼働する中国衛星の数は2018年にアメリカ製を抜き、世界の3分の2を超す国の上空で情報収集している。北京から来たこの男も恐らく、北斗用の正確な地理情報を入手しようとしたとみられる。

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