ごく“普通”の日常生活を、ユーモア溢れるリリック・洒落たトラックで歌い、共感を呼んでいるアーティストがいる。町田出身のラッパー/トラックメイカーのぜったくんだ。

幼少期はSMAPを聞いて育ち、バンドから音楽活動をはじめ、その後ラップへと転向。2018年にインディーズレコード会社・ラストラム主催の新人オーディションでグランプリを受賞し、2020年にメジャーデビュー。同年にはポカリスエットのTVCM楽曲「ボクらの歌」で作詞を担当した。

ほかにも、SUKISHAさんやさとうもかさんといったアーティストとのコラボなど精力的に活動し、直近では9月にデジタルシングル「sunday sunday」をリリース。11月3日(水・祝)には、初のワンマンライブ「Good Feeling」を控えている。

「自分の普通なところに共感して楽しんでもらいたい」──ぜったくんは、なぜ“普通”を歌うのか?

インタビューを通じて、少しだけ打算的な思考や拡大を続ける承認欲求、新曲やライブの裏話と、これまで見えてこなかったぜったくんの「本音」が垣間見えてきた。

取材・文:草野虹 編集:都築陵佑 撮影:寺内暁

目次

SMAP、日本語RAP、邦ロック…ぜったくんの音楽遍歴

──KAI-YOU.netではぜったくん“さん”への初めてのインタビューです。最新曲「sunday sunday」や11月のワンマンライブはもちろん、これまでのバイオグラフィもうかがえればと思います。

ぜったくん ありがとうございます。あ、ぜったくんで良いですよ(笑)。

──ありがとうございます(笑)。ちなみに「ぜったくん」という名前の由来をお聞きしてもいいですか?

ぜったくん 本名の苗字からきています。濁音が多いんですけど、友達からの愛称が派生して「ぜった」と呼ばれるようになったんです。ゲームのハンドルネームなども「ぜった」にすることが多かったので、自然とこの名前が定着しました。

音楽活動も最初は「ぜった」ではじめたんですが、SNSでエゴサしたときに引っかかりにくい。「ぜったい」とか「やったぜ」とかが入ってきちゃう(笑)。だからそこに「くん」をつけて「ぜったくん」になりました。

──ところで、プロフィールには「ごく普通にSMAPを聞き」と書かれています。以前のインタビューでは母親の影響と答えられていましたが、SMAPで一番心に残っている曲は何でしょうか?

ぜったくん 「KANSHAして」ですね。冒頭の「男は 女の子のこと知らなすぎるよ 教えてあげましょう」とか、「世界のニュースより 流行りのジュエリー」とか、いま世に出したらちょっと心配になりそうな歌詞がめちゃくちゃ印象的だったんですよね。

「彼氏のレベルをオフィスでくらべ Shocking 負けたと思うのが いちばんヤなこと」も決めつけがすごい! 初めて聴いたのは子供の頃なんですけど「マジで!? 女の子ってそうなんだ!」とショックでした。

──いいエピソードだと思います。音楽に目覚めたのもその頃なのでしょうか?

ぜったくん 明確に覚えているのは、大学の軽音サークルに入ったときですね。もともと音楽をやるつもりは一切なかったんですけど、同じ大学の友達がきっかけで「僕も新しいことはじめよう」と2人で一緒に入部しました。

僕はギターで、最初はASIAN KUNG-FU GENERATIONやELLEGARDENのコピーバンドをやっていました。結局その友達は辞めて、僕1人になったんですけど。

──ロックが音楽のスタートという意味では、現在のラップというスタイルは少し意外な気がします。

ぜったくん 中学生の頃に日本語ラップを聴いていたんですよ。「他の人とは違う音楽を聴いている自分に酔ってる」というイキがった感じで(笑)。

RIP SLYMEさんやRYTHESTERさん、KGDR(旧名:キングギドラ)さん、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDさん、それからいわゆるニコラップも聴いていました。KAI-YOUさんで公開されている電波少女の動画も見てます。

ぜったくん なので、ロックは大学に入ってからですね。ギターをはじめたことで邦ロックに傾いていって、オリジナル曲をやるバンドも組んだんですがうまくいかず。

「それならラップをやってみよう」と思ったことが、いまのスタイルに繋がっていますね。

──SMAP、日本語ラップ、邦ロック……最近はどういったアーティストを聴いているんですか?

ぜったくん いろんな曲を聴いていますが、まず挙がるのはジェイコブ・コリアーさんなどの洋楽ですね。曲中のコード進行も何をやっているのかも全然わからないけど、とにかくスゲェなっていう。88risingのリッチ・ブライアンさんもぶっ刺さってますね。

普段はいろんなプレイリストを流して聴いてるんですけど、お気に入りは音楽プロデューサー/キュレーターのA.G.OさんがSpotifyで配信している「OMAKASE SATURDAY」というプレイリスト。

最近のかっこいい洋楽が入っててめちゃくちゃ良いです。オススメです。

隠してきた承認欲求、“本音”を見せることのジレンマ

──大学で音楽活動をはじめてから、実際に「音楽で食べていく」ことを意識したのには何かきっかけがあったんですか?

ぜったくん いま所属しているラストラムが2018年に開催した新人オーディションでグランプリとして100万円をもらったんです。

そのときに、大学卒業後も含めて6年間働いていたラブホテルのアルバイトを辞めようと思って。辞めた当日の朝に寿司を食べに行って「自分は音楽で食っていくんだ…」と腹を括ったのを覚えています(笑)。

──まさしく決意の寿司だった。

ぜったくん ラブホも長いこと働いていて、さすがに驚くようなこともなくなっていたし、辞めたら失業保険も出るという話も耳にして、それならやるしかないなと。実益が決め手になるのもおかしな話ですけどね。

──その決意を経て、2019年7月にデビューシングル『Catch me, Flag!!? feat. SUKISHA』で注目され、翌年4月にはポカリスエットのTVCM楽曲「ボクらの歌」で作詞を担当しています。ここまでの活動は、当初思い描いていた通りですか?

ぜったくん 徐々に右肩上がりに成長できればいいなと思っていたので、自分としては順調に来ています。ただ人間欲深いもので「まだまだ足りてないんじゃないのか?」「いまの自分はまだ何も成し遂げてない」とも感じています。

何というか、認められたい欲求の器が広がっちゃっているんですよね。一度満足すると、その次はもっと大きく満たされないと満足できない。

──ぜったくんの楽曲といえば、“チルい”や能天気という印象が強いので、むしろ真逆だと思っていました。そういった欲深さがあるというのは意外ですね。

ぜったくん 確かに楽曲からは見ると、どこかかわいらしいイメージを抱かれていることもあるかもしれません。

もう少し正確に表現するなら、いまの状況をずっと続けるためにもっと頑張んなきゃという感じに近いです。

例えば、将来的に年齢重ねたときに、自分の曲だけじゃなくていろんな人に楽曲提供できるポジションになっていたいとかも考えつつ。

──承認欲求や将来設計についてかなり自覚的に考えているのに対して、これまでのインタビューや楽曲からはそういったムードが感じられませんでした。

ぜったくん 僕は長い間「本音を出すのは恥ずかしいこと」だと考えていたんです。それがここ最近「本音を出さないことのほうがダサいかも」と思えてきたんでよすね。

そもそも、これまでのインタビューで承認欲求について話してこなかったのも、かっこいい雰囲気を醸し出したかったからなんですよ。何もしなくても良い曲をつくるみたいな天才に憧れているので。でも最近、自分はちょっと違うのかもなって(笑)。
 
だから、楽曲でもだんだんと「本音」の部分を混ぜてはいきたいなとは思ってます。ただ、それがファンのみんなが聴きたいものと違う可能性もあるし、そもそも僕は自分の「普通なところ」に共感して楽しんでもらいたいとも思っているので、悩ましい部分でもありますね。

──その観点から言えば、日常生活や実体験といったぜったくんの「普通なところ」を表現するのも、共感してほしいというある種の承認欲求が原動力なのでしょうか?

ぜったくん 原動力というよりは僕自身その方が得意だからですね。僕の場合、自分と他人の普通がわりと似ているという感覚があるんですよ。そこを意図的に表現していくことで、良い曲がつくれる。

クレジットソースリンク