幼少時代は国から食料支援を受けるような貧困家庭に育ったバックン。

そんなパックンが、日本の子どもの貧困の現状を取材しつつ、自らの生い立ちを振り返った著書『逆境力』(SB新書)を出版した。フジテレビュー!!では、1年以上に渡ってパックンの取材に同行。その内容を連載でお届けする。

>>【vol.1】両親の離婚がきっかけで貧乏になった。

シリーズ最終回は、自身の貧乏生活がもたらしたものと今後やりたいことについて聞いた。

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貧乏生活のギフト

僕は、かつて貧しい自分をかわいそうだと思っていました。

お金持ちを恨んでもいた。何気なくお金を使っている人たちに、怒りを感じることもありました。

たとえば、友だちと遊びに行ったショッピングモールのピザ屋さんで、隣席の人がピザを残している。友だちがピザを残していたら「これ、もらっていい?」と言えますが、見知らぬ人には言えません。

「僕はまだお腹が空いている。すぐ目の前には、おそらく捨てられてしまう運命のピザがあるというのに、僕は、それを食べられないなんて!」と怒りを感じましたね。

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箱に残ったピザ


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正直、今はまったく生活には困っていません。だけど、いつも頭のどこかで「もっと節約できないかな」「これは金額に見合うものかな」という意識が働いている気がします。意味のない出費はしたくありません。

ケチといえばケチかもしれませんが、一方、僕は、お金をかけなくても満足できるということでもあります。

「おやつにアイスクリーム? やったー!」「今日はターキーじゃなくてチキン? やったー!」という、あのころの感覚はずっと続いていて、世間で言われるような贅沢をしなくても十分、喜べるのです。

芸能人になってみると、旅番組のレポーターなんていう仕事があります。

タダで旅行できるばかりか、それでギャラをもらえる。機内の食事も、おやつのナッツもタダ。ナプキンもタダ。ありがたい。制作会社が手配してくれる宿は、何も高級旅館でなくても、ビジネスホテルで十分に贅沢と感じられます。

撮影現場やテレビ局のスタジオ、楽屋には、決まってお弁当やおやつが準備されている。この世界に入って20年になるけれど、今でも毎度、「ありがたいなあ」「うれしいなあ」と思います。

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インタビューに答えるパックン


金銭面だけではありません。

芸能人の仕事は家を出る時間がバラバラです。ときには朝の5時に出なくてはいけない日もある。本音を言えば「もっと寝てたいよ……」とは思うけど、朝3時に起きて新聞配達をしていた日々よりはずっとラクだな、と思う自分もいます。

今までで一番大変だったのは、配達先を445軒にまで増やした高校時代。僕の人生は、そのころからどんどんラクになっている気がします。

「あの頃に比べれば」と思えばこそ、小さなことでも幸せを感じられて、多少、大変なことなんて苦労のうちに入らない。そういうマインドを養えたこともまた、僕にとっては貧乏生活のギフトなのです。

>>【関連インタビュー】お母さんのため10歳から新聞配達。パックンの「逆境力」

お金の教育

自分の子どもたちを見ていると、お金の教育に悩むことも少なくありません。

以前、あるものを壊してしまった息子が、こともなげに「また買えばいいじゃん」と言ったときには、つい頭に血が上って怒鳴りつけてしまいました。このときの叱りっぷりは、今までのトップ5に入ると思います。

僕からしたら「また買えばいい」なんて冗談じゃない。ささいな日用品を買う、そのためのお金さえなくて、どれほど悔しく苦しかったかと思うと、冷静ではいられなかったのです。

つい怒鳴ってしまいましたが、その後には言葉を尽くして説明しました。

「お金は持って生まれるものでも、天から降ってくるものでもない。パパが10歳の頃からそうしているように、自分の力で稼ぐものなんだ。それには苦しい思いをすることもある。だから、お金はつねにあるものだとか、モノが壊れたらまた買えばいいなんて考えてはダメだよ」と。

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お金のイメージ画像


僕は、子どもにお金の心配はさせたくありません。経済的な不安があると、やりたいことをやりたいと言えなくなってしまう恐れがあるから。

子どもたちには、自分が望む未来に気兼ねなく手を伸ばせるように育ってほしい。そこで僕の経済力が役立つのなら、できる限りサポートしてやりたい。

>>【関連インタビュー】家庭環境が子どもに「これはできない」と線引きさせてしまう。パックンと探る「逆境力」

ただ、その一方で、お金は無限にあるものではなく、計画が必要であることは理解させたい。海外旅行に行けることが普通だとか、何でも労せずして得られるなどとは思ってほしくありません。

だから、今のうちからできることとして、「何でもすぐに手に入る」という状況は、なるべく作らないようにしています。

たとえば何か欲しいものがあるのなら、まず、買わずに済む方法を一緒に考えてみる。「本は図書館で借りればいいよね」「マンガは友だちと貸し合いっこできないかな」「その洋服が欲しいというけど、本当に必要? すでに似たようなのを持ってないかな?」と問いかけてみます。

そして、どうしても買いたいというのなら、1週間、家の手伝いをしたら買うなど、何かと引き換えにしています。もちろん大変なことはさせませんが、家の中に「自分で稼ぐ」という疑似体験の機会を設けているのです。

一緒にスーパーに行ったときには「今日は3,000円以内に収めようね。一番下の数字は四捨五入で、パッと計算してみよう!」なんてゲーム感覚で、暗算と金銭感覚のトレーニングをすることもあります。

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スーパーの買い物かごの中身


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今の僕にできること

無意味な出費は今でも大嫌い。何を買うにも何をするにも、「これは値段に見合うだろうか?」と熟考するクセがあります。

家族旅行でまとまった出費をするといっても、飛行機はエコノミー。洋服や時計も高いものは買いません。20年前にもらった『スターウォーズ』のTシャツを今も着ているなど、物持ちもすごくいい。まだ使える限り、まだ着られる限りは処分する理由が見当たらないから。

僕の心の中には、今も、お金が足りなくなる不安を抱えた少年が暮らしています。あのころの気持ちが消えてなくなることはありません。

だからこそ、今の自分にできる限り、貧困家庭をサポートしたい。社会のなかで置き去りにされ、苦しい思いをする子どもが一人もいない社会をつくることに、少しでも貢献できたらと思っています。

ゼロにするなんて無理という意見もあるとは思いますが、だからといって何も行動を起こさなければ、何も前進しません。

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インタビューに答えるパックン


僕は貧しい家庭に生まれたけれど、人や環境の恵みをたっぷり受けてきて、今ではいい生活ができるようになりました。自分ひとりの力などではなく、「たまたま」の要素もかなり大きい。

それは、みなさんも同じではないでしょうか。

もし、貧しい思いをしなくて済んできたのなら、あるいは、かつては貧しくても豊かになれたのなら、それぞれ恵まれている。人生の要所、要所で必ず誰かの助けを借りたからこそ、今があるはずです。

ならば、それぞれが自分にできることをする、これに尽きるでしょう。

「救済」なんて大げさな言葉で表現することではありません。あまねく救済するのではなく、自分の手の届くところに「手を差し伸べる」。そんな感覚です。

今の僕は、あのころの僕が羨んでいたような立場にあります。

家がある、バイクがある、子どもを何不自由なく育てることできていて、家族そろってミュージカルやコンサート、海外旅行にも行ける。

そんな生活ができるようになっている今、どうしたら、自分が受けてきた恩恵を、よりいっそう社会に還元していけるのか。責任の果たし方を考える日々です。

貧困から得るものがあるからといって、貧困を放置していいわけは絶対にありません。

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パックンの著書「逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由」の表紙


「逆境力 貧乏で劣等感の塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由」

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